映画『怒り』について
監督・脚本は李相日、主演は渡辺謙で2016年9月17日に公開。
李が吉田修一の作品を映画化するのは、興行収入19億円超のヒット作となった『悪人』に続き2度目。『許されざる者』以来のタッグとなる主演の渡辺謙をはじめ、『悪人』で主演を務めた妻夫木聡や三浦貴大、松山ケンイチ、宮崎あおいやオーディションで選ばれた広瀬すず、新人の佐久本宝などが出演している。
第41回トロント国際映画祭スペシャルプレゼンテーション部門、第64回サンセバスチャン国際映画祭コンペティション部門出品作品。
あらすじ
八王子で起きた凄惨な殺人事件の現場には「怒」の血文字が残され、事件から1年が経過しても未解決のままだった。一年後、東京、千葉、沖縄に素性のわからない三人の男が出現する。
洋平（渡辺謙）と娘の愛子（宮崎あおい）が暮らす千葉の漁港で田代（松山ケンイチ）と名乗る青年が働き始め、やがて彼は愛子と恋仲になる。洋平は娘の幸せを願うも前歴不詳の田代の素性に不安を抱いていた折り、ニュースで報じられる八王子の殺人事件の続報に目が留まる。
ゲイのサラリーマン優馬（妻夫木聡）は新宿のサウナで直人（綾野剛）と出会い、意気投合して同棲する。
沖縄の無人島で、高校生の泉（広瀬すず）が出会うバックパッカーの田中（森山未來）は民宿の手伝いを始める。
ある日、警察が八王子事件の犯人の整形手術後のモンタージュ写真をテレビ番組で公表したのをきっかけに、それぞれの人間関係に揺らぎが生まれはじめる。。
監督・キャスト
監督
- 李相日
千葉編
- 槙 洋平 – 渡辺謙
- 槙 愛子 – 宮崎あおい
- 田代 哲也 – 松山ケンイチ
- 明日香 – 池脇千鶴
東京編
- 藤田 優馬 – 妻夫木聡
- 大西 直人 – 綾野剛
- 藤田 貴子 – 原日出子
- 薫 – 高畑充希
沖縄編
- 田中 信吾 – 森山未來
- 小宮山 泉 – 広瀬すず
- 知念 辰哉 – 佐久本宝
- 泉の母親 – 粟田麗
その他
- 南條 邦久 – ピエール瀧
- 北見 壮介 – 三浦貴大
- 早川 – 水澤紳吾
レビュー・感想（ネタバレ控えて）
１つ１つのストーリーが分厚い
東京、千葉、沖縄に現れた素性のわからない三人の男を中心に物語は進行していきます。それぞれのストーリーはもはや１つの作品としても完成されているほど深みがあります。
東京
ゲイのサラリーマン優馬（妻夫木聡）は新宿のサウナで直人（綾野剛）と出会い、意気投合して同棲する。
男性同士であるため、やはり男女の恋愛にはない障害があります。それでも、優馬は積極的に分かりやすく優しさを示すことで直人と向き合おうとします。それに対して、直人も控えめな性格ながら、それに応えようとしているように見えます。
そんな中で、優馬は直人が指名手配犯ではないかと少し疑ってしまうようになります。多くの障害を乗り越えたとしても、一度浮かんだ疑念というものは消えないものです。信用したいのに、しきれない。これは誰も悪くありません。責任の所在がないだけにやりきれない気持ちになってしまいますね。
千葉
洋平（渡辺謙）と娘の愛子（宮崎あおい）が暮らす千葉の漁港で田代（松山ケンイチ）と名乗る青年が働き始め、やがて彼は愛子と恋仲になる。洋平は娘の幸せを願うも前歴不詳の田代の素性に不安を抱いていた折り、ニュースで報じられる八王子の殺人事件の続報に目が留まります。なんてタイミングなんだ。疑うのは必然ですよね。
けれども、娘が思いを寄せているのです。洋平が望むものは「娘の幸せ」ただそれだけ。怪しさはあるが、娘が心から望む形の幸せを認めるか。娘を守るために、田代を遠ざけるのか。正解のない2択に苦悩する父親の姿が描かれています。
沖縄
沖縄の無人島で、高校生の泉（広瀬すず）と辰哉（佐久本宝）が出会うバックパッカーの田中（森山未來）は民宿の手伝いを始める。
このパートは、辰哉を演じた佐久本宝の演技が凄く光っていたと思います。泉への純粋な恋心・その泉が田中という怪しい男と仲良くしていることに対するなんとも言えない気持ちなど。微妙な心情の変化に引き込まれました。
ミステリーとして面白い
メッセージ性を強く感じるため、感想を語ろうとすると忘れてしまいそうになりますが、『怒り』はミステリー作品としてとても面白いです。犯人は誰何のだろうか。3人の中のこの人が怪しいかな。そもそも3人の中に犯人はいるのだろうか。そんな推理をしながら観られるのでミステリー好きなら満足できる作品だと思います。
信じることの難しさ
レビューを見ていると、多くの方が「信じるって難しいことだな」という感想を持たれている印象です。本当にその通りで、『怒り』を見ていると信じることの難しさを強く感じます。
他人と接する場合、相手の言葉しか判断材料がないことが基本です。高校生までは、ある程度素性を把握できる人間としか接しないので、信じることは比較的容易だったと思います。それ以降は難しくないですか？共通の友人がいれば、多少は発言の整合性を確認できます。しかし、いない場合は相手の言葉で判断するしかないんですよね。また、大人になればなるほど人は建前で話すことが増えてきます。むずくないですか、人間関係。。
愛する代償
上記の「信じることの難しさ」だけならまだいいのですが、そこに「愛」がからんでくると余計に難しくなります。なぜなら、「信じたい」という気持ちがプラスされるからです。
なんとも思っていない人に疑念を持った場合は距離をおけばいいだけの話。一方、愛したいと思える相手ならば、疑念を払おうとします。疑いを持ったまま真摯に愛情を向けることは難しい。愛している、信じたい、けど疑ってしまう。。愛すれば愛するほど、信じたいという思う。信じたいと思えば思うほど、全てを知りたいと思う。全てを知ろうとすれば、少しずつ整合性のない部分が見えてくる。
もしかすると、愛したい・信じたいという想いが、疑いという想いを強くしているのかもしれませんね。
『怒り』を視聴できるVOD（変更あり）
- U-NEXT
- Amazonプライム・ビデオ
- NETFLIX
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